ゆる公認心理師ブログ

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緘黙児ってどのくらいいるの?

学校じゃあそうそう出会わない緘黙

 私は場面緘黙の研究を始めるまで、「場面緘黙」という言葉を聞いたことがありませんでした。一応教職系の大学を出ていますが、講義でも聞いた覚えがありません。学生の頃から学校に関わる仕事をしてきましたが、行った先に緘黙児がいたというのは、たった1人です。
 学校の先生方と話をしていても、緘黙という言葉は聞いたことがあるが、実際に関わったことがない、どんな状態を指すのかよく知らない、といった声を聞きます。むしろ学校現場よりも、療育機関や医療機関に勤めている人の方が関わる人数は多いのかもしれません。

1000人に2人から4人くらい

 さて、本題に入っていきます。場面緘黙児の調査については、河井・河井(1994)にわかりやすい表がありますので、それを参考に私の方でまとめました。

 ざっとこんな感じ

調査者 調査対象と人数 発生率
内山(1959) 群馬県前橋市の全小学校児童24,245人(男児12,279人・女児11,966人) 0.19%
東畑・藤原(1967) 但馬地区の小中学校155校の児童・生徒35,715人 0.38%(小0.44%・中0.29%)
深谷・伊藤松崎・野田(1970) 東京都内公立幼稚園の園児5,950人 0.47%(男児0.46%・女児0.48%)
群馬県教育センター(1978) 群馬県内の小中学校全児童・生徒(小2,012人・中2,566人) 小0.15%・中0.04%
群馬県太田市立中央小学校相談指導室(1979) 太田市内の小学校児童13,306人 0.15%
群馬県太田市立中央小学校相談指導室(1980) 太田市内の小学校児童14,463人 0.20%
村本(1983) 上川管内公立小中学校の児童・生徒(小43,713人・中22,026人) 0.032%(小0.027%・中0.041%)

河井ら(1994)を参考に作成
 多少ばらつきはありますが、だいたい1000人に2人から4人くらいといったところでしょうか。
 ちなみに、国外の文献に目を向けてみると、Kumpulainen,Räsänen,Raaska,& Somppi(1998)の調査では2パーセント(小学校低学年を対象)、Bergman,Piacentini,& McCracken,(2002)の調査では、約0.7%(2256人中16人)でした。国内の文献に比べて多い気がしますね。

国レベルでの調査が行われていないという現実

 さて、この調査を見て、いくつか気になる点があります。まず気づくのは、調査時期が古いということです。そうなんです、場面緘黙の調査はここ30年行われていないのです。さらに気になるのは、国レベルでの調査がされていないことです。河井ら(1994)によると、1960年代に一度行われているようですが、それ以来、国レベルで緘黙児の数を調査した報告はありません。もしあったら教えてほしいくらいです。

大切なことは、目の前の子どもに向き合っていくこと

 緘黙児がどのくらいいるのかは、正直はっきりしません。文科省が学校等を対象に調査でもしない限り、実際の数はわからないでしょう。調査に対する働きかけを行っていくのも大事なことであると考えています。
 しかしながら、一番大事なことは、私たちが緘黙児と出会ったときに何ができるかだと思います。適切な働きかけを行うことができれば、それは緘黙児にとってプラスの経験になっていくことでしょう。そのためにも、どのように関わっていけばいいのか、どんな働きかけをしていけばいいのか、勉強しなきゃダメですね。


参考文献
Bergman, R. L., Piacentini, J., & McCracken, J. T.(2002)Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry,41(8),938-946.
河井芳文・河井英子(1994)場面緘黙児の心理と指導―担任と父母の協力のために.田研出版.
Kumpulainen, K., Räsänen, E., Raaska, H., & Somppi, V.(1998)Selective mutism among second-graders in elementary school. European Child & Adolescent Psychiatry,7(1),24-29.
村本克己(1983)学校における緘黙児の実態調査.情緒障害教育研究紀要,2,77-80.